世界よ踊れ!

みんなみんな生きているんだ。

パスポート失くす、アホは死んでも治らない。

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なんでこんなことに。Cafe Coffee Dayでチャイを味わい今後の旅の計画を練っていたデリーの昼下がり。3杯目のチャイを飲み干して店を出て、ふと気になりカバンの中身をチェックする。

...無い。パスポートが、無い。

いやいや、暑さのせいでどうかしているんだ。気を取り直してもう一度カバンの中身を確認するのだがやはり見つからない。エアコンの効いたCafe Coffee Dayの店内で十分に涼んだはずだったが、既に全身の毛穴から暑さを原因とするもの以外の多量の汗が噴出している。

コンノート・プレイスFブロックの一角にたたずみ前に横たわる野良犬の尻尾に視線を注ぎつつしばし呆然。今日これまでの記憶をさかのぼる。神経は記憶の再現に集中させているため、どこに行っても煩わしいデリーの客引きどもの声は言葉として認識されない。

チャイを飲んだ。KEVENTER'Sのミルクシェイクを飲んだ。クレジットカードでキャッシングをした。メトロに乗った。ラール・キラーを観に行った。どのタイミングでもパスポートを取り出した記憶が無い。最後にパスポートを見た覚えは、ホテルをチェックアウトしラゲッジ・マネージャーに荷物の管理を頼んだときだけだ。あのとき確かにパスポートを見せた覚えがあるが、同時にカバンに収めた記憶もありあやふやなのだ。今回ばかりはカバンに「収めていなかった」ことに懸けたい。ラゲッジ・マネージャーがパスポートを置き忘れたことに気づき、さらに保管してくれているかも知れない。

コンノート・プレイスから飛び乗るようにメトロに乗り、ニューデリー駅前のメイン・バザールに引き返す。最悪の展開を騒々し冷や汗かきっぱなし。大丈夫、無いのはパスポートだけだ。現金もある、クレジットカードもある、写真もある。後はパスポートの紛失証明を警察に作ってもらうだけだ。...全然大丈夫じゃない。

ホテルへの帰り道にどんな奴に声をかけられたか覚えていない。オートリクシャーや車でごったがえすデリー駅前の道路を無意識で渡っていた。

神妙な面持ちでラゲッジ・マネージャーにゆっくりと、シンプルな英語で尋ねようとしたその時、ラゲッジ・マネージャーが先に質問をしてきた。「荷物を受け取る前に、パスポートを見せろ」と。「...その、パスポート失くしてしまったかもしれないんだ。」肩を落とし青ざめきっていたに違いない僕の顔を見て、ラゲッジ・マネージャーは静かに言う。

「パスポートが欲しかったら、管理料50ルピー出しなさい。」

それを聞いた瞬間、あまりの安堵感にその場にしゃがみ込んでしまった。心の底から出る「よかったー」の声。

そうなんです。荷物を預ける時にパスポートを見せたのですが、荷物の引き換え券を受け取った際にラゲッジ・マネージャーが「引き換え券は大事だから大切にしまいなさい」なんて言うものだから、それに気を取られてパスポートをしまうのを完全に忘れていたんですねぇ。他のツーリストにも良くある事のようで、その後は感謝を述べるとともにしばらく笑い話となりました。

今日で旅は12日目でちょうど中間地点にあたるのですが、終わりにせざるを得ないなと覚悟を決めていただけに旅を続けられることが分かったときは異様な脱力感を感じしばらく動けませんでした。ラゲッジ・マネージャーのミスター・パンディーにはこの旅初めての心からのチップを渡す。

今晩オールド・デリー発のMandor Expressに乗り、明日の朝にはジョードプルに到着。後半突入とともに29歳に。やれやれ、アホは死んでも治らない。