気まま視聴覚室

人生は音楽だ。映画のような人生を。

ベルンの奇蹟

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ベルンの奇蹟

あたたかいものをたくさんもらった映画。

敗戦後のドイツ、工業地帯エッセン。母は居酒屋で働き生計を立てていた。11歳のマチアスはサッカーが大好き、下手なので仲間に足手まといになるも、めげずにシュートの練習に励む。地元のサッカー選手ヘルムート・ラーンに憧れ、"鞄持ち"として慕う。不思議と、マチアスが応援していると、ラーンは"ここ一番"の場面で得点するのだ。貧しいながら逞しく生きるマチアス。そんなとき、ソ連の捕虜として戦死したはずの父が帰ってきた。11年ぶりに帰ってきた父は生きる希望を失っていた。初めて会う父親の厳格さにとまどうマチアス。「いっしょにサッカーしようよ!」なんてとても言えない。父は子のサッカー熱を認めない。ついに、マチアスはドイツ代表選手に選ばれたラーンの応援に行きたい一心で家出をしてしまう。引き裂かれる父と子の絆。そして、1954年7月4日、ワールド・カップの決勝戦が始まったとき、奇蹟は起こる---- 

ワールドカップサッカーを通して描く父と子の絆の再生。事実にもとづいたフィクションですが、サッカーへの愛情にあふれた、極上のファンタジーに仕上がっています。

正直ハンカチを忘れてまいった。問答無用で熱いものがこみあげてきてしまって、スクリーンは涙でよりしっとりと艶やかに色味を帯びていきます。映画館って不思議なもので、映画が上映されているあいだは誰もが普通に涙を流せるやさしい空間ですね。デートで訪れたカップルも、ひとりで観に来たおばあちゃんも、映画が始まるまでうるさかった男子高校生の集団も、ラストで潤っときているのがわかる感じ。とことんステキな作品だよ。

それにしても!アネット・アッカーマン役を演じたカタリーナ・ヴァッカーナーゲルの美しさときたら。全体的にややグレートーンの硬質な映像の中、赤い薔薇のような鮮烈さを放っていてかなり印象的です。

東京は日比谷シャンテシネでのみ、16日より公開中。