気まま視聴覚室

人生は音楽だ。映画のような人生を。

クラッシュ

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クラッシュマグノリア

2005年のアカデミー賞で作品賞に輝いた「クラッシュ」。まだ観てなかったんよね、これ。同年作品賞に有力視されていたブロークバック・マウンテンからオスカーを奪ったものの、保守的なアカデミー賞による政治的配慮の結果。。なんて見方もあったようなのですが、とんでもないですな。おもしろい。

一見無関係に見える人々が、ある事件や出来事をきっかけにして繋がっていくという、いわゆる群像劇ものです。他の作品と同様、そこに表現されるのは人間・国、そしてときに世界だが、クラッシュはアメリカに根強く残る人種問題を切り口にしており、移民国家アメリカの現状を色濃く反映させている。

些細な出来事がきっかけとなり、憎しみがうまれ、そして傷つけ合うことになる登場人物たち。結果として一部の人物は罪を負うことになってしまうが、やるせないのは、そこに悪人と呼べる人間は誰一人いなかったということ。いったん生まれた憎悪がいとも容易く連鎖していく様に人間の弱さと社会の脆さが鋭く体現されている。

自分自身えげつない差別を受けた経験はないし、なおさらアメリカのそれをリアルに感じるのは難しいことだが、こうした望まない事態が起こりうるのは、なにもアメリカに限ったことではない。国家間の対立や戦争なんてものは、まさにこれの延長線上にあるものであることを考えると、背筋がそぞろ寒くなる思いがする。

と書いてしまうと、ただエグイ映画だと思われてしまうかも知れませんが、一方で人間は分かり合い守ることもできるものだと訴えるエピソードが織り込まれ、感動というよりも静かな共感を呼び起こします。「透明マント」のエピソードにはゾクッとさせられましたが、揺さぶられますね。

差し障りのない範囲で言うと、ラストシーンでロスの街に雪が降るのですが、マグノリアのアレが自分の中でダブる。