いねむり読書のススメ

活字の海に飛び込もう。

犯人に告ぐ

text:
犯人に告ぐ〈上〉犯人に告ぐ〈下〉

雫井脩介著「犯人に告ぐ」。すこし前に話題になったのですが、最近文庫本で出版されたので購入。なかなか骨太なエンターテイメント小説でした。

劇場型犯罪には劇場型操作を、というありそうでなかった設定。迷宮入りしかけている幼児連続殺害事件打開のため、現役捜査官がテレビというメディアを利用した捜査に乗り出す...というまあ現実にはないだろうなという話なのですが、それだけに面白い。

物語は、主人公の巻島が担当する事件の操作に失敗し、心に深い傷を負い大きな挫折を味わうという滑り出し。巻島は正義感むき出しの熱血漢ではなくて、そうした暗い過去の影響から一見するとある種の冷酷さを持ち合わせており、一癖あるという人物像。あまりにも軽薄な理由で巻島やその捜査自体を己の利益に利用しようとする上司など、他の登場人物の描写も優れている。いるかもね、こういう人。と思わされるところに作者の力量が現れています。

少々突飛というか突然現れる伏線に混乱する部分はありましたが、そうした伏線がクライマックスへきちんと結びついており、上手いなと感じさせられます。犯人の掘り下げが浅く逮捕劇に至ってはかなりあっさりした印象を受けましたが、まあムダに犯行の動機ばかりに着目してページ割かれるより良いかも知れません。

また、この作品は豊川悦司主演で映画化され10月27日(土)より全国ロードショーの予定。小説よりも若干年齢は若いですが、一癖ありそうかつ外見的にも長髪なところで巻島に通ずるものがあり面白いキャスティングですねえ。意外にも刑事役は初めてとのことで、ちょっと興味あります。脚本は「HERO」の福田靖。