ノルウェイの森
暗く重たい雨雲をくぐり抜け、飛行機がハンブルグ空港に着陸すると、天井のスピーカーから小さな音でビートルズの「ノルウェイの森」が流れ出した。僕は1969年、もうすぐ20歳になろうとする秋のできごとを思い出し、激しく混乱していた。----限りない喪失と再生を描き新境地を拓いた長編小説。
作品は全体を通して薄くもやがかかったような暗い展開。村上春樹というと、奇抜で技巧的な作品がどちらかと言えば多いのかなあと思いますが、この作品についてはそうしたものは控えめに、叙情性を存分に押し出したという印象です。
主人公の「僕」(ワタナベトオル)を中心にして、直子、緑、キズキ、レイコさん、永沢さんと、個性的な登場人物が濃厚に物語を彩っていく。濃厚と言いつつもその関係がどこかドライだなあと思えば、次の場面では突如たっぷりと湿ってみたりと、ひじょうに独特ですね。
また、恋愛小説なんだけれども、生死や孤独についての掘り下げ方が深かったりと、作品の立体感に驚かされました。
あいかわらず登場人物の会話が洗練されていて小気味よい。「僕」の喋り方や個人主義的なモノの考え方は人物として魅力的ですねえ。緑ちゃんみたいな女の子はサイコーです。