おいしいくらし

「お。」とトクした気分。

レオナルド・ダ・ヴィンチ ― 天才の実像

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レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像

上野の東京国立博物館で開催されている、特別展「レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像」に足を運んでみた。タイトルどおりダ・ヴィンチ一人に焦点を当てた展示会で、なかなか良かったです。

この展示会で目玉とされているのはもちろん本邦初公開となる《受胎告知》ですが、そもそもダ・ヴィンチの絵画を生で観るのが初めてのことで、いざ会場に入ろうとするときには興奮と若干の緊張を覚えていました。会場は第1会場と第2会場に分けられ、第1会場は1974年にダ・ヴィンチの《モナ・リザ》が展示された場所と同じとのことです。

会場ロビーにてまずはコインロッカー(ちゃんと返金される)に荷物を預けた後、金属探知機を潜りエスカレータに乗る。降りてすぐ脇にある入り口を抜けると、そこが《受胎告知》の展示のためだけに用意された部屋でしたが、絵の前には平日だというのに沢山の人だかりが出来ていることが直ぐに見て取れた。自分もその一人だと認識はしつつもこの平日にどうしてこうも人が集まるのかと気分が萎えるのだが、一歩足を進める毎に近づいてくるえもいわれぬ雰囲気にすぐに呑み込まれてしまい、そんなことはどうでもよくなってしまう。

《受胎告知》へと続く通路は緩やかに登る傾斜の壇になっており、蛇が地面を這うかのようにあるいは空港のバゲッジクレームのターンテーブルのように、部屋の隅から隅へと左右に振られる一方通行となっている。そしてその蛇の道は絵の一歩手前、絵を正面から捉えるかたちで頂上を迎え、次の折り返しで今度は眼前の絵を見上げるようにして進む仕組みだ。そのように身体を機械的に振られながら、ようやく《受胎告知》を視界におさめることになった。

受胎告知

すごい。黄金比を使って計算し尽くされた構図、背景に至るまで余すことなく及ぶ緻密な描写、大天使ガブリエルと聖母マリアの繊細な頭髪、下にある人の身体の量感まで感じさせる衣服の立体感。細かな作品の解説は公式ページに譲るとして、生の絵からはそういった理屈をさらに超えた迫力を感じさせられました。「頂上」の部分の通路で15分ほど立ちつくして見とれてしまったのですが、心の中で「レオナルド・ダ・ヴィンチすげぇぇえ!」と叫ぶとともに若干涙ぐんでさえいた。

というわけで、人によってはいきなり展示会のクライマックスを迎えてしまい実際そこで帰ってしまう人もいるようだったのですが、第2会場の展示はダ・ヴィンチの書き遺した「手稿(Codex)」を元に模型やマルチメディアを利用して広範な精神活動の展開をたどるという趣向を凝らしたもの。手稿のオリジナルの展示はかなり少ないですが、映像やパネルでそれを補い、こちらは《受胎告知》とは全く別の楽しみ方ができるものでした。

もっとも来場者の数が平日でもかなりの数に上るようなので、見所は随所にあるものの第2会場の展示ひとつひとつをじっくり見ることはできず残念に思いました。眺めるものよりも読ませたり見させたりするものの方が多い場合、混雑はかなりストレスになりますね。そのために会場出口には展示物の解説含め詳細を記載したガイドブックがお約束のように販売されていたのですが、今回はケチって買わず終い。

開催期間は2007年3月20日(火)〜6月17日(日)。終了するまでにもう1回見に行ってもよいかなと思える展示会でした。