おいしいくらし

「お。」とトクした気分。

職業というのは

text:
東京奇譚集/村上春樹

「職業というのは本来は愛の行為であるべきなんだ。便宜的な結婚みたいなものじゃなくて」

東京奇譚集「日々移動する腎臓のかたちをした石」の一節で、村上春樹はそう比喩をした。

以前運営していたブログで、一度取り上げた言葉。友人から「前に言ってたけど...」と指摘されて、はたと思い出した。ブログに書いた内容は、書いた本人よりも読んでくれている人間の方が覚えていてくれることもあり、なんともありがたい。しかし書いたことは忘れていても、不思議なもので、その内容やその当時の自分の心の動きは手に取るように覚えているものですね。相変わらず素敵な言葉だなと感じます。

優れた作家は、優れたコピーライターもそうであるように、凡人が自信の知りうる語彙をどれだけ駆使しても成し得ない表現を、実に簡潔なセンテンスをもって感動的にやってのける。彼らの愛の行為は、活字というかたちで世に残り、非同期にヒトを動かしていくのです。なんてニクタラシイ!

しかしオレもそうありたいと思うのです。職業を愛の行為たらしめる努力を、諦めてたまるかと。それが不器用だとされる境遇や便宜に甘んじなければならない場所があるなら、迷わず去るべきだ。

pen 8/1号は、「職人という仕事。」伝統をつくるというたくましさに、ホロリと来させられます。