気まま視聴覚室

人生は音楽だ。映画のような人生を。

バベル

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BABEL

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品「バベル」。菊池凜子のオスカーノミネートでなにかと話題となっておりますが、「マグノリア」にしろ「クラッシュ」にしろこの手の群像劇ものはけっこう好きで、観に行ってまいりました。以下雑感ですが多少ネタバレ気味かも。

モロッコの羊飼いの少年によりいたずらに放たれた一発の弾丸が、たまたま通りかかった一台の観光バスに居合わせたアメリカ人夫婦の妻の身体を射抜いてしまう。その事故を起点に物語がモロッコ・アメリカ・メキシコ・日本で進行していく。

この始まり方からすぐに連想してしまうのが「クラッシュ」。しかしクラッシュに比べるとそれぞれのエピソードの関係は薄い。正直なところ日本編の他のエピソードとの関係は間接的でこじつけ的でもあるのですが、ところがどっこいエピソードとしてはかなり良い!つなぎの妙を味わうというよりも、大きな主題の下で数々の人間が一体となって歌い上げるブルースの様な作品ではないでしょうか。

言葉が伝わらずコミュニケーションがとれないことへのもどかしさ。それによって発生する孤独や渇望・哀しみを、キャラクターとして最も分かりやすく体現したのが、菊池凜子演じるチエコ。演技はもちろん映像や演出の力も借りてのことですが、存在感を強烈に放っていて驚きました。ラストシーンを主演のブラッド・ピット&ケイト・ブランシェットが演じたモロッコ編ではなくあえて日本編に設定したという点からも、チエコがこの映画の象徴的存在であったことが分かります。ラストシーンのカットは目が覚めるように本当に美しいです。

BABEL

一方、アドリアナ・バラッザもこのバベルで菊池凜子と同じくオスカー助演女優賞にノミネートされたわけですが、こちらも素晴らしく演技力だけでいけば菊池凜子ではなく彼女に軍配が上がるかしら。彼女の「私は悪人ではない、ただ愚かなことをしてしまっただけなの」という台詞は、富裕層の人間には救済があり弱者にはそれが無いというシニカルな結末に繋がっているようにも思え、とても痛い。

また印象的だったのは劇中の音楽。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督がファンであったともいう坂本龍一さんの「美貌の青空/04」が、暗い曲ですが惚れ惚れするほど美しく、サントラが欲しいところです。日本からは小山田圭吾や藤井隆も参加してるヨ。