気まま視聴覚室

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ハンニバル・ライジング

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ハンニバル・ライジング

アンソニー・ホプキンスの演じるハンニバル・レクターがキャラクターとして好きで、公開をちょっと楽しみにしていた「ハンニバル・ライジング」。初日の本日見に行ってきました。日劇PLEXほか全国ロードショー。

アカデミー賞主要5部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚本賞)を独占し、サスペンス・スリラーの新境地を開いた『羊たちの沈黙』。その世界的成功により、映画史に深くその名を刻み込んだハンニバル・レクター~天才精神科医にして冷徹な殺人鬼。彼のその特異な人格はいかにして形作られたのか。悪魔が取り憑いたのか、それともただ眠っていた魔性が目覚めただけなのか?本作はレクターの誕生《ライジング》に秘められた謎を暴く、トマス・ハリス原作シリーズ最新作!
ギャスパー・ウリエル

これまでのレクター三部作とは別物として観ればまあまあなのかしらと。レクターがいかにしてシリアル・キラーになっていったかという「過程」を観にいったつもりだったのですが、幼少の頃にトラウマ的な体験をしたという「原因」の描写があったかと思えば、あとは復習劇のような展開となってしまい、精神形成上の過程の描写が少なくて残念でした。原作者であるトマス・ハリス自らの脚本だったのですが、やはり2時間そこそこにまとめるにはストーリーを単純化しなければならなかったということなのでしょうか。原作を読んでいないので断言できませんが、おそらく省かれた内容が多かったのではないかと。

というわけで脚本には不満が残るのですが、それでも「まあまあ」と言ったのは主演のギャスパー・ウリエルがなかなか良かったので。キャスティングの際「チャーミングだけれども、人を殺しそうな佇まいを併せ持っていたから」という理由で抜擢された彼なのですが、アンソニー・ホプキンスのハンニバルをよく研究しています。歩き方とか片方の口角を上げて冷笑する表情、ときおり見せた、実際の年齢よりも一回りは上に思わせる気品ある話し方など、「お。」と思わされました。個人的に好きだなと思った画は、一瞬しかないのですが、ワイングラスを傾けて夜の挨拶をするシーン。知的なセリフ回しが続いてくれれば言うこと無しだったのですが、ここはアンソニー・ホプキンスが演じてもこうなったであろうと納得すると同時に妙に満足してしまった。

バッハ:ゴールドベルク変奏曲(55年モノラル盤)

ちなみに劇中では今回もJ.S.バッハの「ゴルトベルク変奏曲(BWV988)」が登場。若きハンニバルがレコードに針を落としアリアを再生するシーンがあり、思わずニンマリです。若い頃から好んで聴いていたのですねえ。僕の持っているのはグレン・グールドの1955年録音盤なのですが、レクター作品を観る度に思い出したかのように聴いています。当時22歳だったグールドの極めて高い技術に裏打ちされた躍動感ある大胆な解釈が反映された録音で、演奏中の息づかいや口ずさんだメロディーまで収録されたなかなか聴き応えのある1枚です。